ウリッコ1巻レビュー|「時間が進まない人生」を描いたリアルすぎる漫画

漫画レビュー

※本記事は『ウリッコ』1巻の内容に触れています。未読の方はご注意ください。

はじめに

『ウリッコ』1巻を読んで、最初に感じたのは「なんだか読みづらい漫画だな」ということだった。

派手な展開があるわけではない。

主人公が大きな夢に向かって努力するわけでもない。

読んでいてスカッとするような場面も、分かりやすい感動があるわけでもない。

それなのに、なぜか目が離せない。

その理由を考えてみると、この漫画が描いているのは「成功」や「成長」ではなく、人生が前に進んでいない時間そのものなのだと思う。

主人公・キズミの生活には、目標がない。

だからこそ、一日が長い。

しかし、漫画を描いている時だけは時間が早く過ぎていく。

この単純な対比が、『ウリッコ』1巻を読み解くうえで非常に重要なポイントになっている。

『ウリッコ』1巻のあらすじ

主人公・キズミは、ネットカフェで寝泊まりしながら、パパ活で日銭を稼ぐ生活を送っている。

仕事を始めても長続きせず、安定した生活を送っているわけでもない。

将来について明確な目標があるわけでもない。

そんなキズミが、「漫画家は年収3000万円」という話を聞いたことをきっかけに、漫画を描き始める。

もちろん、漫画家への道は簡単ではない。

持ち込みをしても思うような反応は得られず、漫画を描けばすぐに結果が出るわけでもない。

そしてキズミは、一度漫画を描くことをやめてしまう。ところが、そこで彼女自身が気づく。

漫画を描いている時だけ、時間が早く進む。

この感覚が、キズミを再び漫画へ向かわせることになる。

感想① キズミは「努力できない人」ではない

キズミを見ていると、「何もできない人」という印象を持つかもしれない。

仕事は続かない。

漫画も最初から強い覚悟があるわけではない。

嫌なことがあれば逃げる。

集中も続かない。

しかし、よく考えてみると、キズミは完全に何もしない人ではない。

「やろうとはする」のである。

ここが、このキャラクターの妙にリアルなところだと思う。

何かを始める。

少しやってみる。

でも、思ったようにいかない。

面倒になってやめる。

そして別のことを始める。

この繰り返し。

現実の人間にも、こういう状態は決して珍しくない。「夢がない」というより、夢を持つほど何かにのめり込めない。

「努力しない」というより、努力を続ける理由が見つからない。

キズミの問題は、能力の有無だけではない。

「これを続ける意味」を自分の中に作れていないことなのではないだろうか。

だから、彼女の行動には一貫した目的がない。

その一貫性のなさこそが、逆にリアルなのである。

なぜキズミは漫画をやめて、また描き始めるのか
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感想② この漫画のテーマは「時間」なのかもしれない

『ウリッコ』1巻で特に印象に残るのが、「時間」の描かれ方だ。

キズミにとって、何もすることがない時間は長い。

ネットカフェで過ごしている時間は、なかなか進まない。

一方で、漫画を描いている時間はあっという間に過ぎていく。

この違いは、単純に「漫画を描くのが楽しい」という話だけではないように思う。

むしろ、「人は何をしているかによって、時間の感じ方が変わる」ということを描いているように見える。

同じ一時間でも、「何もすることがない一時間」と、「何かに集中している一時間」では、体感がまったく違う。

そしてキズミの場合、漫画を描いている時だけは「時間が進んでいる」。

これはかなり重要な意味を持っている。

なぜなら、キズミの人生そのものが停滞しているからだ。

仕事も長続きしない。

生活も安定しない。

将来の方向も決まっていない。

そんな彼女にとって、漫画を描いている時間だけが、自分の時間を自分で消費できる瞬間になっている。

だから漫画は、最初から「夢」だったわけではない。

「時間を潰すためのもの」だった。

しかし、その程度の理由でも、何かを始めるきっかけにはなる。そこが面白い。

『ウリッコ』1巻はなぜ「時間を潰す」物語なのか? キズミの行動から読み解く作品構造
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感想③ 「漫画家になりたい」という動機が弱いからこそリアル

漫画家を目指す主人公と聞けば、普通は「漫画が大好きで、どうしても漫画家になりたい」という人物を想像する。

ところがキズミは違う。

漫画家になれば大きく稼げる。

そんな話を聞いたことがきっかけで漫画を描き始める。

そして一度はやめてしまう。

それでも戻ってくる理由も、「漫画家になる」という強い信念ではない。

漫画を描いていると時間が潰れるから。

この動機の弱さが、個人的には『ウリッコ』の大きな魅力だと思う。

物語として考えれば、もっと立派な理由を与えることもできたはずだ。

「子どもの頃から漫画家になるのが夢だった」

「誰かを救える漫画を描きたい」

「自分の才能を証明したい」

そういった理由のほうが、主人公としては分かりやすい。

でも『ウリッコ』は、そうしない。

人生を変えるきっかけなんて、実際にはもっとくだらなくて、曖昧なものなのかもしれない

「暇だから」

「なんとなく面白そうだから」

「お金になりそうだから」「やってみたら意外と時間が潰れたから」

現実の人生では、こうした小さな理由から何かを始めることも多い。

キズミの漫画への向き合い方には、そんな現実感がある。

感想④ 「何かを始める理由」は、立派じゃなくてもいい

キズミを見ていると、「何かを始めるには強い目的が必要なのだろうか」と考えさせられる。

キズミが漫画を始めた理由は、決して立派ではない。

お金のため。

そして、時間を潰すため。

それでも漫画を描き始めた。

一度やめても、また描く。

そこには「夢を追いかける主人公」とは違う、不思議な粘り強さがある。

もしかすると、人間が何かを続けるために必要なのは、最初から大きな夢を持つことではないのかもしれない。

「やっていると少し楽しい」

「時間が経つのが早い」

「なんとなく嫌いじゃない」

そんな小さな理由でもいい。

そこから少しずつ「続ける理由」が生まれることもある。

キズミが今後、漫画をどう捉えていくのか。

1巻ではまだ答えが出ていない。

だからこそ、この先が気になる。

『ウリッコ』1巻を読んで感じたこと

『ウリッコ』1巻は、派手な漫画ではない。

主人公が大きな夢を掲げるわけでもないし、努力によって一気に人生が好転するわけでもない。

むしろ描かれているのは、その反対側にある人生だ。

何をしたらいいのか分からない。

何かを始めても続かない。

時間だけが過ぎていく。

そんな状態にいる人間を、きれいに見せることなく描いている。

だから読んでいて、少し居心地が悪い。

でも、その居心地の悪さこそがリアルなのだと思う。

特に印象に残ったのが、

「漫画を描いている時だけ、時間が早く進む」

という感覚だ。

キズミにとって漫画は、最初から人生を変える夢ではない。

ただ、時間を忘れられるものだった。

しかし人生を振り返ってみれば、「時間を忘れていたもの」が後になって自分にとって大切なものになっていることもある。

『ウリッコ』1巻は、そんな可能性をまだ小さく提示している段階なのかもしれない。

まとめ|『ウリッコ』は「成功」ではなく「停滞」を描く漫画

『ウリッコ』1巻を一言で表すなら、「人生が前に進まない時間を描いた漫画」だと思う。

キズミには明確な夢がない。

努力も長続きしない。

何かを始めても、すぐに投げ出してしまう。

それでも、漫画を描いている時だけは時間が進む。

この「時間」というモチーフが、キズミという主人公と作品全体をつないでいる。

そして面白いのは、漫画を始めた理由が「夢」ではないことだ。

「お金になるかもしれない」

「時間を潰せる」

そんな曖昧で弱い動機から始まっている。

でも、人生なんて案外そういうものなのかもしれない。

最初から「これが自分の生きる道だ」と分かっている人ばかりではない。

なんとなく始めたことが続いて、後から意味が生まれることもある。

『ウリッコ』1巻は、そんな人生の途中にある「何もない時間」を、とてもリアルに描いている。

大きな感動がある作品ではない。

それでも、読んだ後に妙に残る。

「自分は今、何をしている時に時間が早く進むんだろう?」

そんなことを考えさせられる1巻だった。

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