この漫画を読んで一番最初に思ったのはこれだった。
「これ、夢をかなえるとかの話じゃないな」
主人公のキズミは漫画を描く。
でも理由が普通じゃない。
好きだからでも、なりたいからでもない。
評価されたいからですらない。
時間が潰れるから描いている。
これがこの漫画の核心だと思う。
キズミの生活はずっと同じだ。
ネットカフェで寝て、客を取って、適当に時間を潰す。
1.5畳の空間で、何も変わらない毎日を繰り返す。
この状態、何がキツいかというと
「時間が進まない」ことだ。
やることがない時間って、異様に長い。
10分が1時間みたいに感じる。
でも漫画を描き始めると、これが一気に解決する。
気づいたら朝。
ほとんど寝てない。
なのに時間は一瞬で過ぎている。
この感覚、たぶん多くの人が知ってる。
スマホを触ってたら2時間経ってたとか。
ゲームしてたら夜が終わってたとか。
つまりこれ、特別な話じゃない。
「時間が溶ける行為」の話だ。
ここで面白いのは、キズミが一度漫画をやめること。
理由はシンプルで
その方が稼げるから。
めちゃくちゃ現実的。
漫画家になってお金持ちになるとか一瞬で負ける。
でも戻ってくる。
なぜか。答えはひどくて、でもリアルだ。
暇だから。
この動機ではめちゃくちゃ弱い。
でも逆に言うと、これが一番強い。
人は「強い意志」で何かを続けるんじゃない。
他にやることがないから続ける。
—
しかもキズミは何が面白いのかすらちゃんと分かっていない。
暗い話を聞いて「なんか面白い気がする」と思う。
他人が拍手しているものを見て「これが面白いと思う人もいるんだ」と思う。
つまりこの漫画、
キズミの中での面白さの基準がグラグラしている。
じゃあこの作品は何を描いているのか。
才能でも、
成功でもない。
時間の使い方だ。
・時間が進まない地獄
・時間が一瞬で消える行為
この対比だけで、最後まで読ませてくる。
そして一番怖いのはここ。
キズミはこう言わない。
「漫画が好き」
「漫画家になりたい」
代わりにこうなる。
「時間が早く進むから描く」
これはかなり危ない状態だと思う。
でも同時に、めちゃくちゃ分かる。
多分ほとんどの人がもうやってる。
・意味はないけど続けてること
・時間が溶けるからやってること
それと同じ位置に、漫画を置いてる。
だからこの作品は刺さる。
キラキラした努力の話じゃない。
夢を追う話でもない。
もっと雑で、もっと現実的な話。
「人生の時間をどう消費するか」の話だ。
読んだあとに残るのは感動じゃない。
ちょっとした不安と、妙な納得感。
この感じがあるから、たぶんまた読みたくなる。


コメント