『スキップとローファー』8巻・物語分析|なぜ別れ話は晴れで、その後に雨が降ったのか

物語構造分析

※本記事は『スキップとローファー』8巻の内容に触れています。未読の方はご注意ください。

漫画で「別れ」を描くなら、雨を降らせる。

かなり王道の演出だと思います。

暗い空。

降り続ける雨。

そこで好きな人との関係が終わる。

ところが『スキップとローファー』8巻は、そうではありません。

美津未と志摩くんが別れ話をする46話のタイトルは、

「ぽかぽかのピクニック」

です。

木々によって少し暗くなった場所にも、隙間から柔らかな光が差し込んでいます。

そして2人が別れたあと、次の47話で初めて雨が降ります。

タイトルは、

「ぱらぱらの雨」

さらに、その雨が上がった8巻の最後には虹が出る。

つまり8巻終盤の天気は、

晴れ → 雨 → 虹

と変化しています。

なぜ、別れ話そのものを雨にしなかったのでしょうか。

この天気の変化を追っていくと、8巻で描かれた美津未と志摩くんの心の動きが、少し違って見えてきます。

別れ話なのに「ぽかぽか」している

46話は、美津未と志摩くんのデートから始まります。

美津未は服装を整えて出かけ、志摩くんと合流する。

公園でシートを広げて、食事をする。

まさに普通のデートです。

その高揚感を表すように、周囲には柔らかな光があります。

だから「ぽかぽかのピクニック」というタイトルにも違和感はありません。

ところが、その穏やかな空気の中で美津未は、

「私たち友達に戻れる?」

と切り出します。

ここが面白いところです。

普通なら、ここで空を曇らせたり、雨を降らせたりしてもおかしくありません。

しかし、景色は急に暗くなりません。

木々によって多少影はできている。

それでも、その隙間から日は差しています。

私はこの景色を見て、この別れを暗い出来事としてだけ描きたくなかったのではないかと感じました。

これは「嫌いになったから別れる」場面ではない

美津未は、志摩くんを嫌いになったわけではありません。

志摩くんも、美津未を嫌いになったわけではない。

2人とも相手のことを大切に思っています。

ただ、「恋人」という関係が今の2人には合わなかった。

だから友達に戻る。

この場面についてはレビュー記事でも詳しく触れましたが、物語の演出として考えると、ここで雨を降らせなかったことには意味があるように思います。

もし激しい雨の中で別れていたら、この場面はどうしても「悲しい別れ」として強く印象に残ります。

しかし実際に描かれるのは、木漏れ日の中で静かに話す2人です。

別れることは悲しい。

でも、2人の関係そのものが壊れるわけではない。

だから光が完全になくならない。

そう考えると、木々の隙間から差し込む光が、この別れ方によく合っています。

「ぽかぽか」はデートだけを表しているのか

さらに気になるのが、46話のタイトルです。

「ぽかぽかのピクニック」

最初は単純に、デートの高揚感や暖かな天気を表したタイトルにも見えます。

でも読み終えてから振り返ると、それだけではないように感じます。

この回で2人は恋人ではなくなります。

普通なら「関係が後退した」と考えてしまいそうです。

しかし、美津未が「恋愛じゃなくても、この人好きだなって思う」と伝えたことで、2人の関係は別の形に変わります。

そこで志摩くんが、

「ほんと?」

と尋ねる。

美津未は、

「ほんと!」

と返して手を握る。

恋人ではなくなったのに、どこか暖かい。

そんな不思議な別れです。

だから「ぽかぽか」という言葉は、デートが始まったときの高揚感だけではなく、恋人という形を手放したあとに残った2人の関係の暖かさにもつながっているように感じました。

では、なぜ次の話で雨が降るのか

そして次の47話。

タイトルは一転して、

「ぱらぱらの雨」

です。

ここだけを見ると、

「別れたから悲しくて雨が降った」

と考えたくなります。

でも、それだけでは少し単純な気がします。

なぜなら、別れ話をした46話と47話では、物語の中心にいる人物が少し違うからです。

46話「ぽかぽかのピクニック」は、美津未から関係を変えようと提案する話です。

一方、47話「ぱらぱらの雨」では、志摩くん側の感情が目立つようになります。

ここに天気の変化を重ねて考えると面白いです。

「晴れ」は美津未、「雨」は志摩くんなのかもしれない

美津未は、自分なりに考えたうえで別れることを決めています。

もちろん迷いがなかったわけではありません。

それでも、自分の中である程度答えを出してから志摩くんに話しています。

だから46話では、別れ話をしているにもかかわらず光がある。

それに対して志摩くんは、美津未から「友達に戻ろう」と言われる側です。

その場では、

「うん。わかった」

と受け入れる。

でも、だからといってすぐに全部の感情を整理できるわけではありません。

47話の朝。

志摩くんは美津未を見つけます。

しかし、声をかけようとして少し迷う。

そこへ氏家くんが先に美津未に話しかけます。

付き合っていた昨日までとは、もう関係が違う。

友達に戻ったと言っても、では今日からどんな距離で接すればいいのか。

そんな戸惑いが残っています。

そう考えると、

「ぽかぽかのピクニック=美津未側」

「ぱらぱらの雨=志摩くん側」

という見方もできるのではないでしょうか。

同じ別れでも、2人の時間差がある

ここが『スキップとローファー』らしいところだと思います。

同じ出来事が起きても、人間は同じタイミングで同じ感情になるわけではありません。

美津未は別れ話をする前に悩んでいます。

考えて、考えて、自分なりの答えを出してから志摩くんに伝える。

だから話し終わったあとには、少し前へ進めています。

一方の志摩くんは、その答えを受け取った側です。

その場では納得できても、日常に戻ったときに初めて、

「昨日までとは違うんだ」

と感じることもある。

だから、別れ話そのものでは雨が降らない。

別れた次の日に雨が降る。

この順番が重要なのかもしれません。

別れという出来事と、その出来事を心が受け止めるタイミングは同じとは限らない。

8巻の天気は、そんな2人の感情の時間差まで表しているように見えます。

雨の中で、美津未も自分の気持ちを整理していく

ただし、「雨=志摩くん」と完全に分けられるわけでもありません。

47話では、美津未もまだ完全に晴れてはいません。

友達と勉強していても、どこか元気がない。

そして美津未は、友達が自分の好きなお菓子を用意してくれていたことに気づきます。

何も聞かず、そっと気遣ってくれていた。

その優しさに触れた美津未は、友達を抱きしめます。

ここで美津未が受け取ったものは、志摩くんとの関係だけではありません。

自分には、自分を気にかけてくれる友達がいる。

恋人との関係が変わったとしても、自分の周りにある大切なものまでなくなったわけではない。

雨の時間は、美津未にとってもそれを確認する時間だったのではないでしょうか。

そして最後に「虹」が出る

雨が上がります。

そして、8巻の最後に虹が出ます。

美津未たちは虹を見に行きます。

そこで志摩くんたちと出会う。

美津未と志摩くんは目を合わせます。

でも、会話はありません。

そのあと美津未は友達と手をつないで、虹と一緒に写真を撮ります。

私はこの虹を、単純な「これからいいことがある」という希望の象徴だけではなく、美津未の心がようやく晴れたことを示す景色として読みました。

志摩くんとの関係には、自分なりの答えを出せた。

恋人ではなくなっても、志摩くんを大切に思う気持ちはなくならなかった。

そして、自分を気にかけてくれる友達の優しさにも改めて気づいた。

いろいろなものが整理されて、ようやく空が晴れる。

だから最後に虹が出る。

虹は「雨がなければ出ない」

そして虹という景色を考えると、もう一つ面白いところがあります。

虹は、晴れているだけでは見ることができません。

雨が降って、そのあとに光が差すことで現れます。

これは8巻の物語にもよく似ています。

美津未と志摩くんは付き合いました。

うまくいかなかった部分もありました。

悩んで、すれ違って、最終的には別れました。

でも、その経験があったからこそ、

「自分にとって相手はどういう存在なのか」

を考えることができた。

何も起きず、ずっと晴れているだけでは分からなかったことです。

だから8巻最後の虹は、

「雨が降ったけれど、雨だったからこそ見えたものもある」

という2人の関係にも重なって見えます。

8巻は「晴れ→雨→虹」でできている

『スキップとローファー』8巻終盤を天気だけで追ってみると、

晴れ → 雨 → 虹

という、とてもシンプルな流れになっています。

でも、そこに描かれている感情は単純ではありません。

晴れているのに、別れ話をする。

別れ話では泣かないのに、翌日に雨が降る。

雨の中で友達の優しさに気づく。

そして最後に虹が出る。

「晴れ=幸せ」

「雨=悲しい」

「虹=希望」

と単純に置き換えるのではなく、その天気が現れるタイミングまで考えてみると、8巻の構成がさらに面白く見えてきます。

特に印象的なのは、一番悲しく見えるはずの別れ話に、ちゃんと光が差していることです。

美津未と志摩くんにとって、別れることは関係の終わりではなかった。

恋人という形から、もう一度お互いにとって大切な関係を探し直すための変化だった。

だから「ぽかぽか」の中で別れ、

その後に「ぱらぱら」と雨が降り、

最後に虹が出る。

8巻の天気は、2人の関係が壊れたことではなく、形を変えながら次へ進んでいく過程を描いていたのではないでしょうか。

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