キモオタ客だけが悪いわけじゃない。『みいちゃんと山田さん』の地獄

物語構造分析

『みいちゃんと山田さん』を読んでしんどくなる理由は、みいちゃんの境遇が可哀想だからだけではありません。

もっと嫌なものがあります。

それは、この作品に出てくる「悪意」があまりにも現実的な形をしていることです。

分かりやすい悪人が出てきて、殴って、蹴って、みいちゃんを壊す。

そういう漫画ではありません。

むしろその逆で誰もが「ちょっとした言葉」や「軽い態度」で、みぃちゃんを削っていきます。

そして削っている本人たちは自分が悪いことをしている自覚がありません。

この作品の中で分かりやすく悪く見えるのは“キモオタ客”です。

でも、読んでいて一番怖いのはそこじゃない。

キモオタ客は確かに気持ち悪いし、言ってることも最悪です。

例えば、みいちゃんにプレゼントと称してぬいぐるみを渡します。でも、中にはカメラと盗聴器が入ってました。

ただ、彼らは「悪意を持っている」ぶん、まだ分かりやすい。

本当に嫌なのは、もっと普通の人が、普通の顔で、普通に悪意を投げてくる場面でした。

そしてこの作品は、客だけじゃなく「店側」も同じ空気を持っています。

ボーイも客を見下しています。

特にキモオタ客を露骨にバカにしている、その象徴みたいなセリフがありました。

「俺はガチ恋してるキモオタ客とは違うから!ただの性欲処理だから!」

このセリフ、めちゃくちゃ嫌でした。

でも同時に、すごくリアルでもある。

ボーイは自分を「上」に置きたい。

キモオタ客を「下」に置きたい。

だから必死に線を引く。

でも、やっていることは同じ店の中で同じように人を消費しているだけです。

ここが『みいちゃんと山田さん』の一番救いがないところだと思います。

この作品の地獄は悪人が暴れて生まれるんじゃない。

「見下し」が当たり前の空気として循環して生まれています。

キモオタ客はキャバ嬢を見下す。

ボーイはキモオタ客を見下す。

店はみいちゃんを便利な存在として雑に扱う。

誰もが誰かを下に置いて、自分の立場を守ろうとする。

そしてその空気の中で、みいちゃんは削られていきます。

みぃちゃんは中卒で、簡単な漢字も読めません。短絡的で、危うい。

でもそれ以上に、みいちゃんは「人と関わる方法」が分からないように見えます。

だから、雑に扱われても怒れない。

嫌だと言えない。

そして何より、離れられない。

みいちゃんは「みんなと一緒でいたい」からです。

『みいちゃんと山田さん』は歌舞伎町が舞台ですが、

怖いのは歌舞伎町という場所じゃないと思いました。

読んでいる側が本当にしんどくなるのは、

この作品の悪意が「特別な悪」ではなく、誰もが無自覚に持っている“普通の悪意”だからです。

誰もが少しずつ無自覚に人を傷つけて、その積み重ねが、取り返しのつかないところへ行ってしまう。

キモオタ客だけが悪いわけじゃない。

この漫画の怖さは、そこにあります。

だからこの漫画は読んでいて現実みたいに痛い。

読んでいてそう思いました。

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