『タイカの理性』1巻を読んで正直かなり疲れました。
展開は次々に転がり、ページをめくるたびに状況が変わっていきます。
それなのに面白くて、止まらない。
読後に残ったのはスッキリ感ではなく、どろっとした感情でした。
「読んでよかった」と思うのに、「もう読みたくない」とも思う。
この矛盾した感覚こそが、この作品の魅力だと思います。
そしてこの1巻で一番怖いのは、暴力そのものではありません。
理性的で正しい言葉の中に混ざる、支配欲の匂いです。
優しさや善意に見えるものほど、逃げ場がなくなる瞬間があります。
この記事では『タイカの理性』1巻を板垣巴留作品の特徴である「本能」と「理性」の描き方から深掘りしていきます。
『タイカの理性』では親しい人物が次のページでは亡くなっていたり、
優しいと思っていた人物に実は裏があったりと、読者の第一印象を平気で裏切ってきます。
でもこれって、漫画の中だけの話ではありません。
現実の人間関係でも、表に出るか出ないかは別として、似たようなことは起きています。
誰かを守りたい気持ちや、相手を思う気持ちが、いつの間にか支配に変わる。
そういう「生き物っぽさ」こそが、本能なのだと思います。
一方で理性は、感情や本能に流されずに物事を判断しようとする力です。
冷静さや客観性、正しさを求める心とも言えます。
たぶん多くの人が「理性」と聞いて思い浮かべるのは、このイメージだと思います。
『タイカの理性』1巻において主人公の亜緒は、犬特有の短期記憶(犬は数秒から数分のことを覚えるのが苦手)に注目します。
そして亜緒は、タイカが父親を殺したのは「自分の勘違い」ではないか?と疑い始めます。
だからこそ亜緒は、タイカの理性を育て、父親が亡くなった時の記憶を思い出させようとする。
これが1巻のラストです。
ただ、この構造が歪んでいて面白い。
作品タイトルは『タイカの理性』なのに、亜緒がたどり着くのは、「自分に都合のいい解釈」をしたくなる本能的な考えです。
本来、人間であるはずの亜緒が本能に引っ張られ、
本来、獣であるはずのタイカに理性を求める。
このねじれた関係が、続きを読みたくなる最大の理由だと思います。
仮に亜緒の優しさでタイカを救えたとしても、亜緒が父親の死体を遺棄した罪が消えるわけではありません。
逃げ場のない物語がどこに向かうのか。それが気になって仕方がない1巻でした。


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