※本記事は『スキップとローファー』7巻の内容に触れています。未読の方はご注意ください。
はじめに
人間関係で疲れるのは、嫌な人に出会ったときだけではありません。
むしろ厄介なのは、相手には相手の都合があって、その都合に自分が勝手に巻き込まれてしまうことではないでしょうか。
自分はそんなつもりじゃないのに利用される。
良かれと思ってやったことが空回りする。
相手の気持ちを考えたつもりが、逆に傷つけてしまう。
『スキップとローファー』7巻を読んで、そんなことを考えました。
2年生になった美津未たちは、それぞれ新しい人間関係に出会います。
美津未は「先輩」になり、結月は新しいクラスで人間関係に悩み、誠は友達の苦しさに踏み込もうとする。
そして最後には、志摩くんが美津未に、「付き合ってみる?」と告げる。
一見すると、青春が大きく動き始めた巻です。
でも、7巻を読み終えて一番強く残ったのは、恋愛よりも人間関係の難しさでした。
人は自分以外の人間のエゴから逃げられない。
そして、そのエゴに振り回される側には、どうすることもできないことがある。
それでも、その中で自分を大切にしてくれる人と出会うことはできる。
それが『スキップとローファー』7巻の面白さだと思います。
2年生になった美津未たちは、それぞれ新しい人間関係に向き合う
7巻では、美津未たちが2年生になります。
クラス替えがあり、後輩ができ、それぞれの人間関係も少しずつ変わっていく。
1年生のときに築いた関係があるからといって、2年生になっても同じ毎日が続くわけではありません。
むしろ新しい環境に入れば、また一から人間関係を作らなければならない。
美津未も、結月も、誠も、それぞれ違った形でその難しさに直面します。
そして面白いのは、誰か一人だけが成長するのではなく、登場人物それぞれが少しずつ変化していくところです。
美津未は「かっこいい先輩」ではなく「なんかいい先輩」を目指す
ナオちゃんのキャラ弁から始まる2年生
2年生になった美津未。
Scene36でまず印象に残ったのが、ナオちゃんが作ってくれたキャラ弁です。
その理由が、「新しいお友達と食べるから、話の種にでもなれば」というもの。これがすごくいい。
単に美津未の好きなものを作ってあげたわけではありません。
新しいクラスで友達を作ることまで考えて、会話のきっかけになりそうなものを用意している。
ナオちゃんが美津未のことをちゃんと見ていることが伝わります。
ところが美津未は、新しいクラスの子たちとは思ったように話せない。
結局、そのキャラ弁を見せる相手は誠になります。
新学年になったからといって、突然人間関係がリセットされるわけではない。
こういう何気ないところに、2年生になった美津未の姿が描かれています。
志摩くんの周りには女子がいっぱい
教科書を借りようと志摩くんのところへ行った美津未。
すると志摩くんの周りには、同じクラスの女子がたくさんいる。
「すごいな志摩くん」と素直に思ってしまうところも面白い。
美津未自身は特別なことをしているつもりがなくても、周囲の人間関係は確実に変化しています。
そして、この変化が最後の志摩くんの「付き合ってみる?」にもつながっていく。
7巻は、こうした小さな変化を積み重ねて最後の大きな出来事につなげているところが上手いです。
「いい先輩」になろうとして空回りする美津未が面白い
春のお悩み相談室、相談者0人
Scene37では、新学年になった美津未と高嶺先輩が「春のお悩み相談室」を企画します。
ところが、春休みが明けても相談者はまさかの0人。
せっかく企画したのに誰も来ない。
この空回りっぷりが、いかにも美津未らしい。
風上先輩から、「がんばりがから回ってるやつ見ると癒されるわぁ……」と言われるのも面白い。
それを見て結月が、「この人がいちばん悩み深いんじゃ……」と思っているのも風上先輩らしくて笑ってしまいます。
美津未は「かっこいい先輩」にはなれなくてもいい
生徒会に入りたいという1年生に先輩風を吹かせた美津未。
ところが、その1年生がかなり優秀な子だと分かり、一気に恥ずかしくなる。
そして、
「人は……生きてるだけで偉いのに……!」
と言って誠にすがる。
この美津未が人間臭くて好きです。
「先輩なんだから、しっかりしないと」
と頑張った結果、空回りする。
でも、そこで終わらない。
高嶺先輩とサッカー部の部長とのやり取りを見た美津未は、
「かっこいい先輩は無理でも、なんかいい先輩にはなれるかな」
と考え直します。
ここに美津未の成長があります。
完璧な先輩になるのではなく、自分らしい形で後輩にとっていい存在になればいい。
そう考えられるようになる。
毎話少しずつ美津未が成長しているところが、『スキップとローファー』の好きなところです。
7巻で一番心に残ったのは、結月の「友達ってさいっぱいいないとダメかなぁ」
ここからが7巻の中でも特に印象的だったエピソードです。
結月は中学時代、モテることが原因で理不尽なトラブルに巻き込まれ、高校受験をして環境を変えています。
高校1年生では、美津未や誠たちと出会い、楽しい時間を過ごすことができた。
だからこそ、2年生になった結月が新しいクラスで経験する出来事が辛い。
結月は「みんなで仲良くなれる」と思って映画に行く
新しいクラスで美津未と話している結月を見た男子から、「マジか~」と言われます。
結月はその言葉に引っかかる。
そんな中、その男子から、「みんなで映画でも行かない?」と誘われます。
結月だけではなく、他のメンバーも乗り気。
それなら、と結月は参加することにします。
ここで重要なのは、結月が単純に「男子から映画に誘われて嬉しい」と思ったわけではないことです。
1年生のとき、みんなで上映会に行って少し仲良くなれた経験がある。
だから今回も、
「みんなで映画に行けば、このクラスでも少し仲良くなれるかもしれない」
と思ったのでしょう。
結月は、その期待を持って映画に行きます。
ところが、当日になってみると、結月と誘った男子以外のメンバーが急に来られなくなってしまう。
そこで結月は気づきます。
これは偶然ではない。
自分と男子をくっつけるために、最初から仕組まれていた。
これまでの経験から、結月はすぐにその意図を見抜きます。
結月が怒ったのは「告白されたから」ではない
男子は照れくさそうに、「オレ1年のときから村重さんのこと気になってて」と告げます。
普通の恋愛漫画なら、ここから告白への返事が描かれるでしょう。
でも『スキップとローファー』は、そこを中心には描きません。
結月が問題にしたのは、
「自分の気持ちを無視して、勝手に人間関係を動かされたこと」
だからです。
結月は、
「あたしがみんなにウソつかれてどんな気持ちになるか考えた?」
と言う。
そして、
「もうしないでね」
と告げて帰ります。
この場面が辛い。
結月は「みんなで映画に行って、少し仲良くなれたら」と思っていた。
ところが、相手にとっては自分たちの都合を実現するための計画だった。
結月自身ではなく、
「男子と結月をくっつけるための材料」
として扱われていたわけです。
だから結月は怒った。
これは恋愛の問題というより、尊重されなかったことへの怒りなのだと思います。
結月は「人のエゴ」に振り回されることに敏感になっている
結月は、人の利己的な行動にとても敏感です。
自分を利用するために近づいてくる人。
自分のことを勝手に決めつける人。
自分の気持ちより、自分たちの都合を優先する人。
そういう人たちに対して、強い嫌悪感を持っています。
だからこそ、美津未や誠のような人間が心地いい。
美津未も誠も、結月を利用するために近づいているわけではありません。
何かの目的のためではなく、
「結月だから一緒にいる」
という関係だからです。
結月にとって、それが特別なのだと思います。
高校1年生が楽しかったからこそ、結月は「穏便に済ませる」ことができなくなった
ここは7巻で結月自身が回想している部分が重要です。
結月は中学時代、人間関係で理不尽なことがあっても、できるだけ穏便に済ませようとしていました。
ところが高校1年生では、美津未や誠たちと楽しい時間を過ごした。
そこで結月は、
「人と一緒にいることは、こんなに楽しいものなんだ」
という経験をします。
だからこそ、2年生になった今は、自分の気持ちを押し殺してまで周囲に合わせることを以前のようにはできなくなった。
これは結月自身の変化です。
以前なら穏便に流していたことに対して、「それは嫌だ」「もうしないで」と言えるようになった。
一見すると、人間関係に対して厳しくなったようにも見えます。
でも実際には、
自分を大切にしてくれる人間関係を知ったから、自分を雑に扱う関係を受け入れられなくなった。
そう考えると、結月の行動には納得できます。
だからこそ「友達ってさいっぱいいないとダメかなぁ」が刺さる
映画の一件から、結月はクラスメイトと距離ができてしまいます。
映画に誘った男子からは、「不快に思ったならごめん」というメッセージが来る。
映画当日に来られなかった女子からも謝られる。
しかし、その謝罪の中でも結月の「器」の問題にされてしまう。
一つ一つは小さなことでも、積み重なれば心は削られます。
そんな中、志摩くんがうっかり結月に起こったことを誠に話してしまう。
そして誠は、夜の公園に結月を呼び出します。
誠は「理解できる」とは言わない
誠が結月に話す言葉が本当にいい。
「私さ、学校じゃゆづといちばん仲いいの私かなーとか勝手に思ってて、だからなんてのかな。私らタイプ違うし?いちばんの理解者にはなれないかもってことはわかってんだけどさ、でも聞きたいんだよ。苦しいことも」
高松先生の作品としては珍しい長台詞です。
でも、ここで誠は、「私はゆづのこと全部分かるよ」とは言いません。
むしろ、
「一番の理解者にはなれないかもしれない」
と自分で分かっている。
それでも、
「聞きたい」
と言う。
分からないから離れるのではなく、分からないから知ろうとする。
それが誠の優しさなのだと思います。
「友達ってさいっぱいいないとダメかなぁ……」
結月はその言葉を聞いて、一度涙をこらえる。
次のコマでは泣き出して、
「ねぇ、友達ってさいっぱいいないとダメかなぁ……」
と言う。
この一言が、結月の人間関係への辛さを全部表しているように感じました。
友達は多い方がいい。
クラスのみんなと仲良くした方がいい。
一人になるのは寂しい。
そんな「普通」に、結月は苦しめられている。
でも誠は、
「んなこたないよ」
と答える。
これが本当にいい。
友達の人数なんて関係ない。
クラス全員と仲良くしなくてもいい。
自分をちゃんと見てくれる人がいればいい。
この2人が親友なのだと、長い説明をしなくても分かる場面です。
7巻で一番『スキップとローファー』らしい場面を選ぶなら、私はここを挙げたいです。
高尾山では、人間関係が少しずつほどけていく
Scene40では、高尾山への遠足が描かれます。
山のふもとで「やっほー」と叫ぶ美津未に、誠が「それ登ってから言うやつ」と突っ込む。
こういう何気ないやり取りがあるだけで、少しホッとします。
結月の人間関係が重かったからこそ、こういう場面が余計に楽しく感じられる。
『スキップとローファー』は人を簡単に悪者にしない
高尾山では、結月を映画に誘った男子や、その周囲の人物についても少しずつ見えてきます。
同じ班の八坂さんは女子からの評判が良くない。
結月を映画に誘った男子も、八坂さんに少し優しくされて惹かれているように見える。
一方で、結月と同じグループのナツキは映画当日の計画を知らなかった。
それでも結月との件について、
「スッキリしたいなら謝った方がいいと思う」
と考える。
そして、その後きちんと結月に謝っている。
ここが『スキップとローファー』の面白いところです。
誰かを完全な悪役にはしない。
人は自分勝手なことをする。
でも、後から自分の間違いに気づくこともある。
だから人間関係は、善人と悪人を分ければ解決するような単純なものではない。
結月の笑顔に少し安心する
高尾山の頂上で、美津未、誠、結月が合流する。
そこで見せる結月の笑顔が印象的です。
問題が全部解決したわけではない。
クラスメイトとの関係も、以前と同じに戻ったわけではない。
それでも、誠や美津未たちと一緒にいる。
結月にとって、
「ここには自分を利用するためではなく、自分自身を見てくれる人がいる」
と思えることが救いになっているのだと思います。
高尾山のエピソードは、新キャラクターたちの人となりも見えて楽しい。
そして何より、結月の笑顔を見られたことにホッとしました。
そして最後に、志摩くんが「付き合ってみる?」
Scene41では、ふみが彼氏と別れたことが分かったり、隣のクラスの子から告白されたりして、ふみのモテっぷりが描かれます。
一方、クラスでは氏家くんが独特の存在感を放っています。
バレーボールでボールを捕ろうとせず、直立不動。
その癖の強さから、なかなかクラスに馴染めない。そんな氏家くんに嫌味を言われた美津未を志摩くんがフォローします。
さらに、氏家くん自身にも優しい言葉をかける。
それを見た美津未が、
「私は志摩くんのそういうとこ好きだなー」
と、つい口に出してしまう。
すると、背中で聞いていた志摩くんが振り返る。
そして、
「付き合ってみる?」
と提案する。
「ついに来た!」と思う。でも「今?」とも思う
ここは7巻最大の引きでしょう。
「ついに来た!」
と思う。
でも、同時に、
「今?」
とも思いました。
なぜ今、このタイミングなのか。
美津未は、ただ志摩くんの人柄を褒めただけにも見える。
それなのに、志摩くんは「付き合ってみる?」と返す。
突然すぎるようにも感じます。
でも、よく考えると突然ではありません。
志摩くんの中には、美津未に対する感情がこれまで積み重なっている。
美津未にとっては何気ない一言でも、志摩くんにとっては、その言葉を受け取るだけの時間がすでにあった。
だから、
読者にとっては突然でも、志摩くんにとっては突然ではなかった。
そう考えると、この告白がまた面白くなります。
最後の「え?」がすべてを持っていく
そして、ここからの演出が最高です。
美津未と志摩くんの頭からカメラが引いていく。
つばめ西高校。
街全体。
日本。
地球。
どんどんスケールが大きくなっていき、最後に、
「え?」
で終わる。
読者の気持ちもまさにそれ。
「え?」
です。
7巻を通して結月の人間関係を丁寧に描いたと思ったら、最後の最後で美津未と志摩くんの関係が大きく動く。
この振れ幅が面白い。
『スキップとローファー』7巻は恋愛だけの巻ではない
7巻の最後だけを見ると、
「美津未と志摩くんがついに付き合うのか?」
という恋愛漫画としての引きが非常に強い。
でも、7巻全体を見ると、それだけではありません。
美津未は「先輩」としてどう振る舞うかを考える。
結月は、新しいクラスで人間関係に傷つく。
誠は、友達の苦しさに踏み込む。
高尾山では、それぞれの人間関係が少しずつ見えてくる。
そして志摩くんは、美津未との関係を一歩進めようとする。
バラバラに見える出来事ですが、共通しているのは、
「人は他人を完全にはコントロールできない」
ということだと思います。
人のエゴに振り回される人間に、成す術なし
7巻で結月が経験したことは、その象徴です。
結月はみんなと仲良くなりたいと思った。
だから映画に行った。
でも、相手には相手の都合があった。
結月の気持ちは、そこにはなかった。
結月がどれだけ誠実に人と向き合っていても、相手が同じように向き合ってくれるとは限らない。
これはどうしようもない。
人にはそれぞれエゴがあるからです。
美津未だって、良い先輩になろうとして空回りする。
誠だって、結月のことを完全に理解しているわけではない。
志摩くんだって、自分の「付き合ってみる?」を美津未がどう受け取るかは分からない。
人間関係には、必ず「自分にはどうにもできない相手」がいる。
だから、
人のエゴに振り回される人間に、成す術なし。
7巻を読んで、そんなことを感じました。
でも、この漫画はそこで終わらない。
それでも「自分を大切にしてくれる人」は選べる
結月は、自分を勝手に利用する人間を選ぶことはできません。
相手がどう行動するかも、コントロールできない。
でも、自分を大切にしてくれる人と一緒にいることはできる。
美津未や誠がそうです。
「友達ってさいっぱいいないとダメかなぁ……」
という結月に、
「んなこたないよ」
と言ってくれる人がいる。
それだけで、結月は救われる。
だから7巻は、単純に「人間関係って難しい」という話ではないと思います。
むしろ、
人間関係はどうしようもないほど難しい。だからこそ、自分を大切にしてくれる人との関係には価値がある。
という話なのではないでしょうか。
まとめ|7巻は「人のエゴに振り回されても、大切な人は選べる」巻だった
『スキップとローファー』7巻は、2年生になった美津未たちの新しい生活を描きながら、人間関係の難しさをかなり深く描いた巻でした。
美津未は、先輩として頑張ろうとして空回りしながら、自分なりの「いい先輩」を見つけていく。
結月は、クラスメイトのエゴに振り回され、自分の気持ちを無視されたことで傷つく。
そして誠は、結月のことを完全には理解できなくても、「苦しいことも聞きたい」と踏み込んでいく。
その結果、
「友達ってさいっぱいいないとダメかなぁ……」
という結月に、
「んなこたないよ」
と返す。
この場面が7巻で一番好きでした。
そして最後には、志摩くんの、
「付き合ってみる?」
という爆弾が落ちる。
「ついに来た!」と思う一方で、「今?」とも思う。
だからこそ、8巻が気になって仕方がありません。
7巻を一言で言うなら、
「人のエゴに振り回されても、大切な人との関係は自分で選べる巻」
でした。
人間関係は、自分の力だけではどうにもならない。
それでも、自分をちゃんと見てくれる人と出会うことはできる。
『スキップとローファー』7巻は、そんな当たり前だけど難しいことを、青春の日常の中で丁寧に描いた一冊だったと思います。


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